〔橋岡久馬氏に捧ぐ〕
今回の横浜飛天双○能にて橋岡久馬氏におシテを依頼致しましたのは、特別な理由からです。
久馬氏は、能役者の中で表現者として際だった名手でいらっしゃいます。それは、制約の多い能の型の中で、ご自分の解釈をいかに表現していくか挑戦なさるからです。そのために緻密に稽古を重ねられるのだと伺いました。ですから、久馬氏の演能を拝見すると、驚きを持ち、改めて能も演劇であったのだと気付かされるのです。
横浜では公演に一度もお迎えしていないという久馬氏の能を、是非横浜の方々に観ていただきたいというのが、今回の番組立ての意図でした。
久馬氏が昨年から「唐船」の稽古を既に始められていらしたと伺い、どのようなドラマチックな「唐船」になるか、大変楽しみにしておりました。
それが、突然の旅立ちの報に接し、大変残念でなりません。
長年、久馬氏の大事な公演のときには、観世栄夫氏が後見か地謡の頭を務めておられ、今回「唐船」では地謡の役でしたが、亡くなられた久馬氏の代役としてお願い申し上げましたところ、快くお引き受けいただきました。
観世栄夫氏は申し上げるまでもなく、能楽界の重鎮として、能楽のみならず様々な分野の舞台人に影響を与え続ける素晴らしい能役者でいらっしゃいます。
久馬先生。どうぞ、天上から本日の舞台をお楽しみ下さい。